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第十二話:教育現場のIT活用を阻害するものは

先週末は、新しいプロジェクトや研究の構想・企画が続いた。情報モラル関連、IP電話、ネット対応ディスプレイ活用、研修システムに関するものだ。どう展開していくか関係者とひざを突き合わせて考えるこのひとときは何事にもかえがたい。今後の展開が楽しみなものばかりだ。こういう機会がたくさん得られることは本当に幸せだと思う。



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上記のプロジェクトにもからむが、私がかかえているプロジェクトのうちのいくつか(というかほとんど)は、その市町村を越えて、他の市町村の学校や専門機関、専門家との情報通信ネットワークを活用してのコラボレーションが想定されている。でも、これがなかなかままならない。ポートをあけたり、他地域との交流のためにテレビ会議システムや掲示板を使うこと自体、何度も交渉を繰り返さなければGOが出ない。いや、出れば良い方で、例え管理職が細かく説明しても結局NGになり、交流を断念せざるをえないケース(地域、学校)も多々ある。



環境自体は回線がINSからケーブルや光になり、はるかに速くなってきているし、コンピュータ室だけでなく教室にもどんどんネットワーク対応のコンピュータが設置されつつある。しかし、現状を見ていると、インターネット環境が物理的によくなっていくとそれと反比例するようにこれまでちょっとでもできていたことができなくなって(制限されて)いるように思うのは私だけだろうか?



やる気があるのに思うようにできない全国の現場の教師から以下のような声をもらっている。

・地域のインターネット運用について、これまでの教育委員会直接担当から外部の会社委託になったために、これまで各学校個別対応してくれていたことがすべてNGになった。

・コンテンツの開発も行っており,よい教材もたくさんあるが、市外の学校からは、活用できない。何故使わせないのかと聞いたところ「うちの市がたくさんのお金を使って開発しているのだから,他の市町村に使わせるのは抵抗がある。」と返事をされた。

・地域サーバのフィルターがホワイトリスト方式(委員会のお眼鏡にかなったサイトのみ学校で閲覧ができる)のため,限られたコンテンツでしか調べ学習を行えない。また,検索の際jpeg画像にフィルターがかかる。

・教育委員会以外が主催している情報教育の研究会の案内などを出すことを断られた。「そのような会に町内の教師が参加したことでネットワーク等でいろいろな活用をができることを知り,やりたいと言い出したら困る」という理由のようだ。



もちろん、私が知っている多くの都道府県市町村の担当者(指導主事など)は、学校現場でのIT活用が広がるように、環境整備はもとより、IT活用の授業アドバイスまでも根気強く、積極的かつ熱意をもってやっておられる。私も元は教育委員会でそのような担当をしてきたので、理解をしてくれないわけのわからぬ行政職の上司を説得するのがいかに大変かわかっているつもりだ。

でも一方で、せっかく前向きに活用してようとする教師に冷や水をあびせるような事なかれ主義の担当者も少なくない。



すぐには変わらないこともあるだろう。しかし、文句だけ言っていても始まらない。やるべきことをやり、こういう授業をこんなふうにやりたいというイメージ(ゴール)を持ち続けることが大事だと思う。それが不十分だとしても、できる環境の中で実績を残していくことが何よりの説得材料になることはまちがいない。

また、状況がカイゼンするための情報交換ももっと積極的に進める必要がありそうだ。それぞれの立場でできることはまだまだあるのではないかと思う。

コメント (8)

けんたろー@長崎:

>できる環境の中で実績を残していくこと
説得材料となるような実績を残せるようがんばります。お陰様で最近少しだけ光(イメージ)が見えてきました。・・・さて課題課題。

山本@新大阪:

>うちの市がたくさんのお金を使って開発しているのだから,他の市町村に使わせるのは抵抗がある
 痛いです。かつて、私も、行政職時代に「都道府県の税金で整備した環境を無償で市町村に利用させる必要などない」と予算要求時のヒアリングで指導主事に言ったことがあります。でも、本当に求められているのは、横断的な施策のはず。総務課、指導課、施設課・・・そんな枠を越えた施策が必要なのに、その枠を越えた施策を実行に移すことができない。行政って、同じことが土木や医療、福祉など教育委員会以外の分野でもあります。ただ、不十分な環境でも「頑張る人だけ」が、他人からの応援を受けることができるのも、行政の中には存在している仕組みです。自分にできることを、継続し続けることが、本当に必要だと思います。

中川妹@広島:

「NHKのデジタルコンテンツが見られるようにしてください!」と、教育委員会に電話したり、市の研究会等でお願いしたり、仲間が市HPの掲示板に書き込んだりしていたら、やっと4月から回線が「光」になり、9月からは新しいパソコンが入り、夢が実現しました。
それなのに、「運動会で忙しい」と自分に言い訳をしながら、十分な活用ができていません。宝のもちぐされにならないようにがんばらなくては!

:

> やるべきことをやり、こういう授業をこんなふうにやりたいというイメージ(ゴール)を持ち続けること
現場でできる最善のことがこのことだろうと思います。目指すイメージをもち、子どもが変わっていくことを示すことができれば、行政サイドは動かせる、と私は信じています。うちの市は、今そういう方向に進んでいるからかもしれませんが・・・・。でも、「きっとできる」と信じていないと、やる気だって起きないですよね。 

fukai:

確かにいろいろな障害があり、数年前よりハードルが高くなったのでは・・・?と思うことも多くなりました。今年の夏にお手伝いをしていた県のIT研修会でも、市町村によって随分違いがあることが分かりました。
でも、やはり声を大にして言わなくてはならないのは、こんな授業をすることでこんな子供たちに育てたいということを明確にし、1つ1つ実践で積み上げていくしかないかなと。愚痴や文句を言うだけでは解決しないですものね。「為せば成る・・・」の精神でがんばりたいと思います。

匿名:

タイトル : 地教委の情報教育に関係する指導主事の役割
中川先生がIT活用を阻害するものとして「指導主事や教育委員会の対応」があげられていた。つらい話である。中川先生も同じ立場...more

こうちゃん号@三重:

私学に勤めるこうちゃん号にとって、理事会に理解を示してもらえるようになるまでの1990年代前半の悪戦苦闘を思い出します。教育的によい実践でも、どれだけ地域や外部に認めてもらえる内容なのか、どれだけ注目を引く内容なのかというアピール性が認められるようになるカギでした。実践は発信しまくることで評価されて鍛えられてきたように思います。公立の皆さんのご苦労とは質がちがうかわかりませんが・・・

たなぽん:

現場の実践が、行政を動かす。そう信じてやるしかないですね。アピールの方法も必要でしょうが。

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2004年09月13日 13:21に投稿されたエントリーのページです。

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